真冬のコンビニバイトアコガレ【クリスマス・イブ編】

あけましておめでとうございます。2010年のことシリーズは普通に出オチ感が半端ないっすね…。おおみそかの日、リハビリのために渋谷を自転車で往復したらものすごい体力を消費してしまいました。
僕が一番言いたかったこと(マッキーふうにしたつもりだけど、ただのボクっ娘みたいだね…)は2010年はそれまでの人生でいちばんいい年だったんじゃないかということだけです。今年はもっといい年にします。
突然ですが皆様、「アコガレ」という言葉をご存知でしょうか。「ア」にアクセントがつきます。ア↑コガレ。
ラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」に詳しい(http://www.tbsradio.jp/utamaru/labo/index.htmlの7/31分)のですが、ふつうの「憧れ」とはちょっと違うの。例に挙げられるのが、打ち上げアコガレ。みんなで何かを達成したあとにする打ち上げにアコガレる感じ。はやぶさチームの打ち上げを想像してアコガレる。あとは、二次会三次会まで残ったメンツだけでするコアな打ち上げアコガレ。そこでひとりが悩みごとを言い出すアコガレ。あとは「男女仲良しグループがペイントボールを投げ合う公園でペイントボールをぶつけ合う」アコガレ。とか…。わかるかなあこれ…。
自分が彼らに混じりたいわけじゃなくて、このアコガレの対象と自分との距離感、がアコガレだそうです。わかるかなあ…。
ともかく!わたくしクリスマスイブから本日にかけて、コンビニバイトに対するアコガレが募りすぎて死にそうなの。というわけで、私の変態性さくれつコーナーを始めます!
【クリスマス・イブ】
2年半付き合った彼氏と別れてしまった。とはいえ何度も別れていて、今回もささいな喧嘩の勢いで私が「じゃあもういいよ!」と言ってしまった。まあすぐいつもどおりになるだろうとなんとなく考えていたが、今回はそうはいかなかった。向こうに新しく彼女ができていたのだ。うそでしょー。
私たちはアルバイト先の居酒屋で出会った。で、その新しい彼女とやらも、アルバイト先の後輩。うそでしょー。雰囲気に耐えられなくて、アルバイトまでやめる羽目になってしまった。さいあく!
忘年会とバーゲンのお金は絶対必要。となると、つなぎでもいいから早くアルバイトを見つけなきゃいけない。じゃあ「短期でも可」のところにしておくか。
こういうわけで、甲州街道沿いのコンビニでバイトを始めたのが12月半ば。単純作業で、かなり楽勝。中国人留学生のワンさんとも仲良くなった(日本語が聞き取りづらいけど)。しかしまあ、元彼が煙草を吸う人だったから意外とおじさん客にも対応できるのが地味にむかつくんだけどね…。
独り身のクリスマスイブなんて久しぶりすぎてどう過ごせばいいのかわからない。女友達と過ごすのも、なんかなーって思う。でも親に別れたこと言ってない。さすがにでかけないといろいろ詮索されてめんどくさいよな…。と思っていたところに店長から電話があった。はい、イブですね、行きます行きます。たまには非リアな気分を味わってみてもいいかもしれないなー。ヒマそうだし。イブの夜にコンビニに来るってどんな寂しい人達だよ。
行ってみておどろいた。ワンさん、サンタ服着て外でケーキ売ってんじゃん。めっちゃ声張り上げてる。そういえば、コンビニっていつもこういうことしてるよね。控え室に入ると、私も同じ衣装を渡された。あー、これは若い子の役目なんですね。店長は中でぬくぬくレジ打ってるよ。
「クリスマスにケーキはいかがですかー」ワンさんと二人で売り子をすること2時間、売れたのは6ホール。え、意外と買う人いるのね…。でも、まだ20ホールも余ってるよ…。もうすぐ18時か、売り切れるわけない気がするぞ…。
ここでトナカイ君登場。ちょっとだけ向井理に似てる、たしか同い年の子。今まで2回しかシフトかぶったことがなかったから知らなかったけど、彼女いないのかな。そこそこイケメンなのに。まあ、どうでもいいんだけど。
「ケーキいかがですかー!」…。車の音に、声が吸い込まれていく。とっくに日は沈んでいて、少しずつ寒くなってきた。「寒いですねえ」「ほんとですね、着ぐるみって夏着ると暑いくせに防寒にはならないんですよ」とか、どうでもいい会話を交わす。そして、ワンさんが上がり。「私これから実家帰って彼氏に会うから。がんばって」え、冬休みは上海なんですね…。知らんかった。
ワンさんが帰ってから、ケーキの売れ行きが悪くなった。こんな時間にコンビニでホールのケーキを買う人なんて、そりゃそうそういない。残り9個。べつにノルマがあるわけじゃないけど、なんだか売れなかったら申し訳ないもんなあ。トナカイ君としゃべる話もないので、交代交代で呼びこみをすることになる。寒いし、相変わらず車がうるさい。
休憩から上がったら今度はトナカイ君が休憩で、特に話しはしないけど、隣に人がいたほうがいいなあとか思う。さすがに一人でサンタコスは、ばかばかしい。もうちょいましな売り方はないのかね…。知り合いが近くを通らないことを祈るわ。ここ地元だし。
帰ってきたトナカイ君からホッカイロを手渡される。「寒すぎますよね。普通に買っちゃいましたよ」「すみません!あとで割るんで言ってください」「あーべつにいいですよ、これ2個入りなんで。二つ持ってても意味ないから」「じゃあありがとうございます」
トナカイ君と交わした会話はそれだけで、23時に二人で上がったときに残ったケーキは5つだった。すっごく疲れていそうなサラリーマンが2つ買っていったのと、トナカイ君の友達カップルが冷やかしに来て買ってくれたのをよく覚えている。「もう持って帰っていいよ」と言われたので、べつにいらないけど1ホールずつもらって駅までの道を二人で歩いた。
リア充なのかと思ってましたよ」「私がですか」「はい。なんか茶髪だし」「まあ以前まではそうだったかもしれないです」「ふうん」「まあイブにバイトもそれなりにいい経験ですね。ていうかワンさんに彼氏がいるってなんかびっくり」「たしかに」
なんとなく沈黙。こういうのが苦手だから、破ってしまう。
「こんなんもらってどうしましょうかね」「ああケーキですか、これ絶対おいしくないですよね」「ですよね」
…やってしまった、また沈黙。
「適当な家の前においたりしません?サンタさんからのメッセージみたいなの書いて」「え」
やばいひかれた。
「いやべつに、今思いついただけなんですけど」「でもそれいいかもしれませんね」
毒は入ってません。サンタより。
箱にでっかく書いて、オートロックのついていない、貧乏そうなアパートの隣同士の部屋の前に、そっとケーキを置いた。「これで完璧っすね」「通報とかされないといいですね」「まあ悪いことはしてないから大丈夫ですよ」「この住人たちのあいだに連帯感とか生まれたらいいですよね」「そしたらもはや慈善事業ですね」
終電がやばいです、と言ってトナカイ君は走って帰った。
ケーキの話しかしていないし、連絡先を交換したわけでもないし、なにより、きっかけがなくて敬語をやめられなかった。
たぶん彼とシフトがかぶることはもうない。