映画について

 何年か前、中学生のときに友人と映画を見に行く約束をした。

あのときにどんな生活をしていたかうまく思い出せないんだけど、ほとんど「遊ぶ」ということをしていなかったと思う。日本一の繁華街(たぶん)にある学校で、だからこそ都会的なものに興味をもつことがなかったのかな、とか思う。いや遊んでないのとは関係ないかな。

 運動部に入っていた私は平日の放課後と週末のほとんどぜんぶを、練習やら試合やらに費やした。体力がないもんだから、帰ったらよく眠った。気がする。完全なる休日なんかほとんどなかった。

 他の友人だって同じようなもので、うちの部活が体育館を使っていないときはあの子の部活が使っていたり。ターミナル駅にある私立の中高一貫校だったので、みんなの帰る方面もばらばら。

学校が繁華街にあると、放課後に遊ぶ生徒が少なからず出てくる。当時はプリクラを撮る施設みたいなのがあって、来店と撮影でそれぞれポイントが貯まって、ディズニーのペアチケットがもらえたりしたんだよ。いまはBAPEになっちゃってるけど。そうそう、スペイン坂の上。

いや、つまり、先生方が街中見回りをするんです。見つかったら、何があるんだっけ。高校生のときにスターバックスのオープンテラスでお茶をしていたら見つかったことがある(なんて大胆不敵な見つかりかたなんだ)けど、どんな処分が下ったのか覚えていない。反省文かな。ともかく、放課後にぶらぶらして見つかったらめんどくさいんです。だから、中学生のころは放課後に寄り道することすらほとんどなかった。怒られるのきらいだし。

そんなこんなで、休みの日に友人と出かけるというのは、かなり特別なことだった。その「遊ぶ」って、ジャングルジムじゃないんですよね。

 さて、こんなふうに書いておいて、みんな普通に休日遊んでいたりしたら、非常に悲しいんですけど…。うーんでも、私が人生でいちばんたくさん友達のいたときだもんなあ。いや、でも、なんか自信なくなってきた。

 ともかく。

 私はその映画を見に行くのを、本当に楽しみにしていた。というか休日に出かけること自体が楽しみだった。あの子はどんな私服なんだろう(私はばりばり古着を着ていたよ。恥ずかしい!)。

 どの映画館で、何時に上映で、主演は誰で、相手役は誰で(恋愛映画だった)、監督は誰で。今でも全部覚えている。あのときは無名だった脇役の俳優が、いまやイケメンで大人気になっている。

映画の名前を検索窓に打ち込んで、公式サイトに飛ぶ。真っピンクのサイト。予告編を流し、「INTRODUCTION」やら「STORY」やらをじっくり読む。ほとんど毎日。Yahoo!映画での評判も、もちろんチェック。☆2つのレビューがちょっとある。

 主題歌がものすごく気に入った。日本のバンドの新曲で、センチメンタルな歌詞をボーカルが叫び歌う曲だった。でも、予告編だとサビしか聞けない。YouTubeがまだ普及していなかった時代で、私の月のこづかいは2000円だった。CDを買ったら破産だ。地元駅のPARCOにHMVが入っていて、そこの試聴コーナーに通うことにした。エスカレーターで地下2階まで潜り、太い柱にくっついた再生機に一直線。2番の途中で切れてしまうその曲を、何度も何度も聞いた。

 理由は思い出せないが、約束は流れた。なんでだっけな。予定が合わなくなったのか、相手が先に見ちゃったのか。うーん。あの子とクラスが離れちゃったんだっけ。

 あれだけ楽しみにしていたその映画の上映期間は終わり、相変わらず貧乏だった私の辞書に「TSUTAYA」の文字はなかった。その発想すらなかった。まあつまり、いまでも見たことがないのである。

 それでも、そのちょっと奇妙なラブストーリーのすじがきを私は知っている。主題歌も歌える。「見たけどつまんなかった」人よりずっとずっとずっと、その映画への思い入れが強いんじゃないのか。

 むしろ、他人と比べなくても、たとえば付き合いで見たくだらない映画なんかより、私はその映画が好きだと思う。

 そのうち、自由にできるお金も時間も増えて、休日に友人と遊ぶことがごくあたりまえのことになった。ひとりで映画を見に行くこともかなり増えた(それにしても大学の近くにある名画座は最高ですね)。あんな気持ちで一本の映画を楽しみに楽しみにすることはもうないのかな、と思います。