爆音映画祭に行きましたよ

自宅からチャリで6分の場所にバウスシアターという映画館があって、24日の金曜日から「爆音映画祭」というなんともキャッチーな名前の映画祭を開催しています。その名のとおり、爆音で映画を見る、というイベント。なんでもライブ用のサウンドシステムで上映するそうで、パンフレットによると「世界一、音の良い映画祭」とのこと。言い切る感じがとても好き。
都民が東京タワーに行ったことがないのと同じような心持ちで、吉祥寺でとくべつなことをするのはなんとなくためらわれて、いつも気になってはいたけれども行ったことがなかったのです。が、映画好きの友人が最近になってたくさんできたり、好きな映画が爆音上映されるのを知ったりで、開催4度目にして初めて見に行ってきました。
朝の7時半から3時間ちかく並んで(これは私が情報弱者ゆえのことで、販売開始1時間前くらいに行けばほぼ確実に買えるようです。そもそも前売り券を買うべきだった…)、いろいろ悩んで『キック・アス』と『AKIRA』を見ることにしました。
どっちも、映像がでっかく動いてひとが死にまくる映画。
キック・アス』のほうは(おそらくわざと)思想性を排除していて、悪と見なされた相手は迷わずぶっ殺してよいことになっている。中途半端に正義だとか悪だとかの正当性を疑ったりしないし、観客にもそれを求めない。そのほうが、アクションシーンの大量殺戮でスカっとできる。
AKIRA』はすっごい複雑。最後まで見終わって、世界観をなんとなく理解できるくらい(それは私の頭の力が弱いだけかもしれないけれど)。ひとりの少年が大きな力を手に入れてしまうのだけれど、彼はまだ精神的に幼い。というか弱い。そのアンバランスさが力の暴走を引き起こしてしまい、建物や道路や都市ががらがらと崩れていく。
なにかがなにかと戦う物語は、だいたい「正義と悪」の扱いに苦労しなくてはいけないように思う。最近の『ダークナイト』とかサンデルブームなんか考えると、よけい。「正義」とか「悪」という概念は相対的なものだし、「ワルモノにはワルモノなりの正義がある」。こういう考えかたがずいぶん広まった気がするが、これに適当な答えを用意してしまうと物語の結末がなんとなく気持ち悪いものになる。中途半端な正論は、えてしてつまらないのだ(『トイ・ストーリー3』が唯一失敗したのはここだと思う)。
そんなことを考えると、振れ幅の大きな2本を一気に見たのかもしれない。『キック・アス』での「正義」と「悪」はもはや物語を進めるうえでの前提になっているが(こいつらはワルモノだから殺されて当然、と観客に思わせるようなずるい描きかたをしていないところがいいよね)、『AKIRA』は最後まで見てもけっきょく誰がなにと戦うべきだったのかよくわからない。どちらもスクリーンをめいっぱい使ったアクションの場面が多いけれど、私はどちらともぜんぜん違った気分で見ました。
キック・アス』は2回目だったので、なんていうか、ディズニーランドでアトラクションに乗るような気分。なにが起きるかわかっているけど、それが充分おもしろい。私は映画の結末が読めなくてハラハラするのがとても苦手なので、2回目からのほうが純粋に映像を楽しめる。
で、爆音だからね。もう、ちょう気持よかったです!音楽のセレクトも最高だし、12歳の女の子ひとりがでかい大人どもをぶっ倒していくさまは、倫理観なんかくそくらえって感じで、何度見ても、いいのよ!エンドロールで流れる爆音のMIKAに踊り出したくなったのは私だけではあるまい。ウィーアーヤーング!
AKIRA』は初めて。勘違いで頭の中に勝手な『AKIRA』像を作り出してしまっていたらしく、券を買ってパンフレットを確認するまでアニメだということすら知らず、ARATAあたりの出るドラマかなにかだと思っていました…。なんの予備知識もなしに映画館に行くのはけっこう好きなんです(上に書いてあることと矛盾するって?筋道がしっかり通った人間がすべからく魅力的なわけではないでしょ!)。
ストーリーは難解、というか、ついていくのに必死になる。よけいな情報はいっさい明かされないし、上映時間が終わったら、はい考えるのやーめた、というようなテーマじゃない。ひとことでいえばヘビーな映画だ。画面も音も、重い。そう。音が重いの。映画館の暗闇が音で満たされる感じ。重低音が鳴り響くたびに、座席や指先に振動が伝わる。ブラひもまで揺れるの(胸は揺れないけど)。圧倒。映像もアニメならでは、とはいえ、アニメでここまでできるのかい、というくらいかっこいい。画面にちらりと中央線ネタが入るのもよい(やはり大友克洋は吉祥寺のひとみたい。アトレの広告を描いていたし!)。エンドロールのあと、自然に客席から拍手が湧いた。ほどなくして扉が開いて、明かりがさす。「本日はありがとうございました」というスタッフの声が、なんだか心地良かった。
レイトショーだったから、外に出たら空気がひんやりしていて、静かで、暗かった。駅とは反対方面に向かう道を、自転車を漕いで帰った。さっきまで見ていた東京は、轟音をたてて崩れていた。いつも通る住宅街は、地面に足をつけないで通っているせいか、うその世界みたいだった。ふわふわ。
また50回くらい同じことをしたいなあ。同じ映画を同じスクリーンで同じ爆音で見たい。でもたぶん、現実には不可能だろう。またあるかわからないもの。小沢健二のコンサートに行ったときも、そんなことをぼんやり考えて帰った。なんだかんだ私は「取り返しのつかないできごと」がすごく好きだ。いつあるかわからない次回を楽しみに、爆音で見たアクションシーンを思い出して、きょうもあしたも元気に生きていける気がするじゃない!
爆音映画祭、8日まで、吉祥寺のバウスシアターにて開催。可処分所得と可処分時間のあるみなさまは、ぜひ!