『ベルサイユのばら』におけるオスカルのチャームポイントについて

きょうは気分が晴れなかったので好きなカフェまで出かけて、置いてあった『ベルサイユのばら』を一気に読んだ。まとめて読んだのはインフルエンザにかかってひまを持て余していた中学生のとき以来。大人になったのかな、読みかたがずいぶん変わりました。
端的にいうと、以前よりもオスカルの生きざまに注目してしまうんだよね。武官として育てられて男社会に生き、自らの仕事をまっとうしようとしつつ、女性性からも逃れられないオスカル。彼女からある女性の生き方の一種の型が見えてきませんか。
つまり。「ワセジョは第三の性」を「ワセジョは現代に生きるオスカル」と言い換えて良いのではないだろうか。
そういうわけなので、オスカルの魂をもつ私が勝手に選ぶ、オスカルにきゅんきゅんしちゃうシーンをピックアップしてご紹介します。以下ネタバレも辞さない姿勢で筆を進めていきますが、ベルばらについてはネタバレの害がほとんどない作品だと考えています。ミュージカルやオペラって、パンフレットに筋書きがあるでしょ。そういう漫画なので、この記事を最後まで読んだところで、初めて読んだときのきらめきは失われないものだと思います。これをきっかけに読んだことのない方はぜひ、触れてみてほしいです。「目が異常にでかい」というあの時代特有の絵柄を乗り越えさえすれば、革命期のフランスを中心に広がるでっかい人間ドラマにのめりこめること間違いなし。私はベルばらが、相当好きです。
さて、本題に移りましょう。
まず、近衛兵を束ねていたオスカルが進んでフランス衛兵隊にポストを求めたけれど、平民の兵士たちは貴族かつ女であるオスカルの命令をきかない。それどころか監禁してレイプなんかしようとしちゃいます。倉庫のようなところに男10人くらいで連れて行き、オスカルを椅子に縛り付ける。「お前が非力な女だってことを体でわからせてやるよ」というわけです。普通に考えて怖すぎるよね。私が同じ立場にいたら、鳥肌と涙が止まらなくなると思う。しかし、さすが軍神マルスの子・オスカル。近づいてきた部下の顔につばを吐き、「わたしは年下の男には興味がない」と一笑に付すのです。しびれますね。
そのあと窮地を切り抜けたオスカルは、この部下たちと真剣にぶつり合い、いずれ最高の小隊を作り出します。が、それはまた別の話。このエピソードのどこがきゅんきゅんポイントなのかというと、この時点で30を越えていたオスカルがまだ処女だということ!そんなことおくびにも出さず、というかむしろ強がって非処女っぽくふるまうオスカルがけなげでかわいくて胸がいっぱいになります…。
もひとつ。小間使いの孫であり、幼なじみとして一緒に育ったアンドレとついに結ばれるシーン(このとき二人とも35は超えている)。アンドレは初期からオスカルのことが好きだったのだけれど、一度押し倒して泣かれてふられているしその後無理心中しようとして思いとどまったし身分違いの恋だし、最近は彼女のそばにいて献身的なさまざまなはたらきを見せるだけ。って、こう書くと、けっこう強引な男性なんだけど。
オスカルのためなら自らの命もかえりみないアンドレの行動によって、彼の片思いはようやく成就します。たぶん20年近くは好きだったはずなので、おそろしく一途ですね。互いに愛の言葉を交わしあい、熱いキッス(ちなみに、このときにオスカルが思うアンドレの唇評はかなり素敵なのでぜひ読んでみてください)。生の喜びを分かち合うふたり。しかしときは革命の火蓋が切って落とされる直前、ふたりは軍人としてとても大切でとても危険な仕事に向かわなければならないのでした。ここでオスカルの男スイッチがオン。要件を話しながらたたかいの中へ向かって行こうとするふたり…と思いきや。部屋を出る直前にオスカルがアンドレを呼び止めて、無言の上目づかい!で、アンドレがオスカルにちゅーするっていう!あのキス待ち顔は反則や!うまい具合にちょいちょい女を見せてくるオスカルに萌え萌えせざるをえません…。
じつはオスカルは縁談を持ちかけられていました。相手は同じ貴族でイケメンのジェローデル少佐。彼を振るときのオスカルは、はたから見るとけっこう最低です。「私のことを愛しているのだな」と聞き、相手がそれを認めると、「ということは私が不幸になることを望まないのだな、私がお前と結婚したら不幸になる男がいてそいつが不幸になったら私も不幸になる、だから結婚はできない」とまくしたてる。オスカルらしいといえばオスカルらしいのだけれど、こういうふうに有無をいわさず相手の思いを無下にすることは、ちょっと私にはできません。
さて、ふたりの幸せな時間は長くは続きません。オスカルは謎の体調不良、アンドレは目がどんどん悪くなってゆく。そして情勢は日々刻々と動き、ついに暴動の報まで。革命の足音はすぐそこで聞こえます。
出動の前夜、オスカルはアンドレを部屋に呼びます。ドアを開けると、バイオリンでモーツァルトを演奏するオスカルのすがた。と、もじもじし始める彼女。とまあここで引っ張っても仕方ないから書くけど、エッチにお誘いするのよね。オスカルが。その照れている感じが本当によい(セリフはぜひ読んで確かめてみてほしい)。アンドレは平民だから誘いづらいかなとか考えたすえで、オスカルからがんばってみるのですよ…!これは完全に女を上げる行動だと私は思います。そのあと「やっぱり怖い…」と逃げるオスカル(アラフォー処女だもんな)をアンドレがちょっと強引に「怖くないから…」とお姫様抱っこしてしまうところも最高。そしてアンドレもアラフォー童貞なところが多少現実味を欠くのですが、まあ、おはなしだからよしとしよう。
そして翌朝、オスカルは衛兵たちを連れて戦場に赴くのです。隣にはアンドレがいるのに、昨夜のことを見せない大人っぷり(乗馬していて痛くないのかな…。最低な感想ですみません)。私はオスカルが男の顔をして陣頭に立つあの見開きでごはん三杯いけるよ。しかもそのあとアンドレにこっそり「この戦闘が終わったら結婚式だな」と耳打ち。なんてすばらしい死亡フラグを立ててくれるんだこの女は…。
この漫画のなかで描かれるオスカルは、本当にすばらしい人物です。自分の信念に従い、実力をつけ、さまざまな重圧と戦いながらも高貴な生をつらぬく。男女関係なく、多くの人が彼女の生きざまに憧れることでしょう。
でも、女の子としては等身大でカワイイ部分があるんだよ。っていうお話でした。
そういえば、彼女が『社会契約論』を読んでいたら父親に「ルソーだと!あんなの平民か謀反人が読む本じゃないか!」と叱られる場面も印象的でした。ものすごく知的な市民だったのだなあ。映画「ノルウェイの森」でも主人公が読んでたよね。